大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和26年(あ)2650号 判決 1952年3月27日

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人両名の弁護人福田力之助の上告趣意について。

しかし、憲法三八条一項の規定は、「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」ことを保障したに止り、被告人又は被疑者に対し、あらかじめ、いわゆる黙秘の権利あることを告知理解させなければならない訴訟手続上の義務を規定したものでないことは、夙に所論引用の当裁判所大法廷の判決の趣旨とするところである(昭和二二年(れ)一〇一号事件につき判例集二巻八号八四六頁以下、昭和二三年(れ)一〇一〇号事件につき同三巻二号一四六頁以下参照)。されば、所論憲法違反の主張は、その前提において採用し難い。しかのみならず、刑訴二〇三条に基く司法警察員の被疑者に対する弁解録取書、又は同二〇四条若しくは同二〇五条に基く検察官の被疑者に対する弁解録取書は、専ら被疑者を留置する必要あるか否かを調査するための弁解録取書であって、同一九八条所定の被疑者の取調調書ではないから、訴訟法上その弁解の機会を与えるには犯罪事実の要旨を告げるだけで充分であって、同一九八条二項所定のように被疑者に対し、あらかじめ供述を拒むことができる旨を告げなければならないことは要請されていない。従って、所論弁解録取書に検察官が被疑者に対してあらかじめ、供述を拒むことができる旨を告げた旨の記載が存しなくとも訴訟法違反があるともいえない。そして、弁解録取書であっても、被告人の供述を録取した書面と認められ且つ刑訴三二二条の要件を具備するか又は同三二六条の同意がありさえすれば証拠とすることができること論を俟たない。それ故、本件につき刑訴四一一条を適用すべきものとも認められない。

よって、同四〇八条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 岩松三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例